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文 江戸散策家/高橋達郎
コラム江戸
第54回 夫婦和合は、永遠のテーマ。
『咳の爺婆(せきのじじばば)』 (向かって左側が婆神、右側が爺神) 弘福寺(墨田区向島5-3-2)
『咳の爺婆(せきのじじばば)』 (向かって左側が婆神、右側が爺神) 弘福寺(墨田区向島5-3-2)

写真は、江戸時代に彫られた仲の良さそうな夫婦の石像である。それも爺婆(じじばば)と呼ばれているように老夫婦である。どんな経緯があって、安置されているのだろうか。仲睦まじい夫婦の関係は、江戸時代であろうが何時代であろうが、変わらぬ願いである。

石像の話の前に、現代の夫婦関係の運動を紹介しておこう。11月22日の「いい夫婦の日」がそれ。この日は昭和63年(1988)に(財)余暇開発センター(現(財)社会経済生産性本部)によって、『夫婦で余暇を楽しむゆとりあるライフスタイル』の提唱に伴って制定された。平成10年からは「いい夫婦の日をすすめる会」が中心となってこの時期にキャンペーンを展開している。夫婦の料理教室やパーティなどさまざまなイベントが各地で開催される。また、例年この日のために理想のいい夫婦「パートナー・オブ・ザ・イヤー」も発表される。今年はどんな夫婦が選出されるのだろうか(2006年度は船越英一郎・松居一代さん夫婦が受賞)。
理想の夫婦のあり方、いい夫婦とはいったい何かとかを問われてもなかなか答えにくく、深みにはまってしまいそうなので、夫婦の記念日くらいに考えると気が楽である。単なるゴロ合わせの日にすぎないが、一年に一日くらい「私たちはどんな夫婦なんだろう」とお互い考えてみるのも悪くはないと思うし、これを機会に夫婦でイベントを楽しむのもいいだろう。

江戸時代に話を戻そう。写真の二基の石像は寛永年間(1624~1644)に、相州(神奈川県)の風外(ふうがい)和尚といわれる禅僧が両親の供養のために山中で求道生活をしながら彫ったものだ。見事な出来栄えに感銘した小田原城主がこれをもらい受け、転封に際し菩提所である弘福寺に安置したのだという。小田原から江戸に運ばれ、ここに落ち着くまでは様々な伝承が残っている。
夫婦の石像が行方不明になったり、別々に祀られていたこともある。また、一緒にしておくと必ず爺さんの方の石仏が倒されるともいわれた。実はこの夫婦は仲が悪く、ときどき喧嘩をしては、婆さんが爺さんを倒してしまうといういい伝えもある。昔から女性は強かったということか。この辺の話は柳田国男の『日本の伝説』にも紹介された。今はもう大丈夫、微笑みをたたえながら二人仲良くならんでいる。夫婦はやはり、山あり谷ありということなのだろう。
この一対の石像は「咳の爺婆」と呼ばれているように、風邪除けの神様として知られ、今も多くの参拝者が訪れる。そういえば、この石像の作者は風外という名の僧侶だった。爺さんは、口内炎や扁桃腺(へんとうせん)のような口中の病を治してくれる神様、また婆さんは咳を止めてくれる神様だ。境内で「せき止飴(あめ)」を売っているのが面白い。風邪をひいたら、「咳の爺婆」にお参りをしたあとアメをなめてみるのもいい。その際は、ぜひ夫婦で訪ねよう。

夫婦欅(めおとけやき) 阿佐谷 神明宮(杉並区阿佐ヶ谷北1-25-5)
ちょっと江戸知識 コラム江戸
夫婦欅(めおとけやき) 
阿佐谷 神明宮(杉並区阿佐ヶ谷北1-25-5)
夫婦はいつも、こうありたい。

全国には、「夫婦ケヤキ」と呼ばれる樹木はいくつかある。なかでも阿佐ヶ谷の神明宮境内にあるケヤキは群を抜いて美しいと思う。夫婦と呼ぶに相応しく二本の樹木が地にしっかり根をはり、ぴったりと寄り添って天高く聳(そび)え、一緒に美しい枝葉をたたえている。
このケヤキに限らず、夫婦○○と呼ばれる樹木は数多く存在している。夫婦桜、夫婦杉、夫婦銀杏…、これらはみな、いい夫婦関係を願って祀られているものだ。
巨樹・巨木や古木に神が宿るという考え方は、日本古来のものである。それを御神木として祀るのは、万物に感謝を込めた自然の信仰といえそうだ。生命をもつ樹木だからこそ大切に祀られるわけだが、樹木である以上やがては枯れるときがくるのもいたしかたない。かつて神明宮の御神木だった大ケヤキが枯れたため、昭和初期に地元の青年団によって奉納、植樹された若木が、この写真のように成長した。当初は二本の若木だったものが八十年の年月を経てここまで立派になった。夫婦ケヤキという名称は後に付けられたものだ。
この夫婦ケヤキにあやかろうと、夫婦や若いカップルが二人でケヤキに触れていく姿はなんとも微笑ましい。

文 江戸散策家/高橋達郎
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