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文 江戸散策家/高橋達郎
コラム江戸
第66回 土用丑の日、なぜか日本人は鰻を食べたい。
『役者尽くし』國芳 右上に「以づ栄(伊豆栄)」、左上に「かばや起(蒲焼)」(伊豆栄 浮世絵コレクションより)
『役者尽くし』國芳 右上に「以づ栄(伊豆栄)」、左上に「かばや起(蒲焼)」
(伊豆栄 浮世絵コレクションより)

“本日土用丑の日”は、平賀源内(ひらがげんない/1728-1780)の名コピーとされる。彼は、蘭学者であり博物学者でも戯作者でもあった。天才、異才、奇才と称されるように、様々な分野に手を広げ、マルチタレントのような生涯を送った有名人である。科学者として、文学者として、また発明家やビジネスマンとしても、八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍だ。
そんな活躍ぶりから、夏の土用の丑の日に鰻を食べる習慣は平賀源内の宣伝文句から始まったという俗説が生まれた。この話には、実はあまり根拠がなく、裏付ける史料も残っていない。狂歌や洒落本で知られる大田南畝(おおたなんぼ/1749-1823)説もある。

その俗説によると、あるとき鰻屋の主から売り上げアップの相談を受けた源内は“本日土用丑の日”と半紙に書いてやったという。それを店先に貼ったところ、千客万来、店は大繁盛したというのである。なぜ土用丑の日が鰻に結びつくのかには訳があった。この丑の日には「う」のつく物を食べる習慣がもともとあり、梅干し、うどん、瓜類などを食べるのが夏の暑い時季に体に良いとされていたからである。そこに注目したのが源内、「う」のつく鰻をクローズアップした。広告効果は抜群、現実的に夏バテに鰻が効くこともあって、以来鰻を食べることが習慣化し現在に続いている。土用の丑の日には、無性に鰻を食べたくなってしまうのが日本人ではないだろうか。理由などないのだが、あの美味しい蒲焼を食べたくなってしまうのだ。不思議な食文化ではある。

鰻は刺身でも食べられるそうだが、通常は蒲(かば)焼、うな重、うな丼としていただくことが多い。歴史を振り返ってみると、『万葉集』の大伴家持(おおとものやかもち)の歌には、鰻が夏痩せに効くことが詠み込まれている。大昔から我々の祖先は鰻を食べていたのは確かのようだ。おそらく何らかの方法で焼いたのだろう。
江戸時代の風俗誌『守貞謾稿(もりさだまんこう)』には蒲焼の名前の由来が紹介されている。それによると、昔は鰻を輪切りにして串刺にして焼いたため、その形状が蒲(がま)の穂に似ていることから、蒲(がま)が転じて蒲(かば)焼になったのだという。
鰻を開いてたれをつけて焼くという食べ方は、室町時代には既に上方で行われており、やがて江戸に下ってきたのだろう。元禄年間(1688〜1704)には蒲焼の小屋掛け程度の店は登場したと思える。
うな丼は、文化年間(1804〜1818)に日本橋堺町の芝居小屋の金主(スポンサー)である「大久保今助」の発案した食べ方とされている。日々仕事に忙しい彼は鰻が大好物、いつも芝居小屋に出前をさせていたが、焼きざましを残念に思い、丼に温かいごはんと蒲焼を一緒にして蓋をしたものを思いつき注文したのが始まりという。
いずれにしても鰻は高価な食べ物だったが、江戸後期には庶民の食べ物にもなっていく。屋台も数多く出て蕎麦に近い値段で食べることができたようである(鰻一串が十六文、蕎麦一杯が十六文)。

 
伊豆栄 本店/台東区上野2-12-22 tel.03-3831-0954
ちょっと江戸知識 コラム江戸
伊豆栄 本店/台東区上野2-12-22 tel.03-3831-0954
今も江戸創業の鰻屋が伝統を守る

江戸前といえば、寿司や魚を思い浮かべてしまうが、当時は鰻を指して使った言葉といわれている。江戸も後期となると平賀源内のおかげもあって蒲焼は広く普及し需要も高まった。幸いなことに隅田川や神田川で良質な鰻が多く捕れた。この鰻を最上のものとし、他の地域から江戸に入ってくる鰻を「旅鰻(たびうなぎ)」と呼んでワンランク下とみなしたのである。もちろん、江戸前は高く旅鰻は安い。江戸前の蒲焼をお店で食べることは、粋な江戸っ子の自慢だったようだ。
上方から江戸にやってきた蒲焼は、江戸独自の発展を遂げていく。武士の町であることから、鰻は背割り (俗に、江戸の背割り上方の腹裂き)とし、あっさりとした味にするために蒸して脂肪を落とす工夫も加えている。
ありがたいことに、江戸時代から続いている鰻の老舗が都内には数店ある。なかでも「伊豆栄」は場所も創業の地上野不忍池の畔にあって江戸の趣も楽しめる。江戸中期の創業(八代将軍吉宗の頃)で、260年の歴史をもつ老舗、浮世絵に登場する程の店だ。味の良さはこの歴史が証明しているだろう。土用丑の日には、こんなところで蒲焼を食べたいものである。
参考までに、土用とは節気の一つ(第57回参照)、年に4回あるが、夏の土用を指すことが多い。2009年の土用の丑は7月19日、土用二の丑は7月31日。

文 江戸散策家/高橋達郎
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