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第6回 「南太平洋縦断 〜トンガからサモア〜」
地上の楽園、トンガ王国からサモアまで小さなボートで南太平洋約1000kmを縦断した。場所が違えば価値観も違う。生きるために本当に必要なものとはなんだろう。最低限のものしか持てないボートに荷物を積んで、夜になれば無人島を探し上陸してテント生活。そこでなにを見、なにを学ぶのか。南太平洋縦断の巻。
どこまで行っても海、海、海。本当に果てしなく広い南太平洋だ。
どこまで行っても海、海、海。本当に果てしなく広い南太平洋だ。

「南の島のカメハメハ大王は ?」
  南の島の王様は〜? と聞かれてすぐ思い浮かべるのは「カメハメハ大王」の名ではないだろうか。その大王がハワイを治めていたのは200年も前の話。しかし、南太平洋には今も王様がいる。海の砂漠と言われる外洋のど真ん中に浮かぶ小さな島国、トンガ王国だ。その王国は大小150ほどの島から成り、面積は全部の島を合わせても日本の淡路島くらいで、人口は約10万人程度の小さな国。その国の王様はジョージ・トゥポウ 5世という。
  僕がこの島を初めて訪れたのは2000年の夏だった。世界最大級の冒険レースとして知られる「キャメルトロフィー」がこの地で開催されることになりオフィシャルカメラマンとして同行することになったからだ。この競技は世界16カ国の選考会を通して選び抜かれた32名が、この大会のために開発された特殊ボートを使って島や海の底に隠されたポイントを探し、ボートに積んであるMTBやスキューバダイビング、サーフボードなどの道具を使いそのポイントにたどり着き、得点を獲得するために技や知恵、チームワークを競うというもの。大会期間は約1ヵ月だが、選考会やトレーニングの期間を合わせると約1年にもおよぶ。これは世界中から選び抜かれた冒険者が集まった大人の壮大な遊びなのだ。

男性の胴にまくのは「タオバラ」、腰に巻くのは「ツペヌ」と呼ぶ。女性のスカートは「キエキエ」という。
男性の胴にまくのは「タオバラ」、腰に巻くのは「ツペヌ」と呼ぶ。女性のスカートは「キエキエ」という。

 スタートの準備でトンガに一週間ほど滞在したのだが、街を歩いてビックリするのはトンガの人々は体がお相撲さんのように大きいことだ。全体的にフィジーの人より一回り大きく、そして男女共に伝統的なスカートをはいている。その生活は都会とは正反対にシンプルなもので、ゆったりと一日の時間が流れ、人のやさしさで癒される心地よさがあった。さらに温暖な気候、美しい景色、そしてさんさんと照らす太陽に囲まれたトンガはまさに地上の楽園そのものといった印象を受けた。

 レースではトンガをスタートするとサモアまではほとんど陸地はない。取材陣は選手らと同じ条件の長さ6.5メートルほどのリジット・ボートに乗る。これはゴムボートにエンジンがついているスタイルのため、波のうねりの影響をうけ、常に上下に大きく揺れるので波しぶきが全身にかかる。スピードを出して走ると座ってはいられないほどボートが飛び跳ねるのでまるで馬に乗っているみたいだ。大会中は睡眠も食事も無人島に上陸して野宿し自給自足をすることになる。南太平洋上のトンガからサモアまで1000kmを移動するだけでなく、その上レースをしようというのだから競技というよりほとんど冒険に近いといってもいいだろう。

泊まるための無人島を探して走るキャメルボートと私たち、毎日が夢のような体験だった。
泊まるための無人島を探して走るキャメルボートと私たち、毎日が夢のような体験だった。

 地球の表面は7割が海というだけあってこの南太平洋にいると地球は水の惑星だということがよくわかる。
海の真っただ中に放り出されたも同然、陸が見えないという事は精神的にもすごく心細いものだ。 毎日選手達は夕方5時頃に競技を終了し、近くの島を見つけて上陸しなければならない決まりになっている。

日が暮れ始めると地図とGPSを使って近くの無人島を探し始めるのだが都合良く島があるわけではないので暗くなる前に島に上陸するのは簡単ではなかった。

絵に描いたような美しい無人島でテントを張り、自炊する選手とジャーナリスト達。
絵に描いたような美しい無人島でテントを張り、自炊する選手とジャーナリスト達。

 広い太平洋を何時間もボートに揺られていると、たとえ直径10mほどの小さな島でも、上陸するとホッとするものだ。日本にいるとあたりまえの事が、ここでは足で地面の上に立てることの安心感、土の上で眠れる幸せは何ものにも代え難いことを実感する。まずは電気もなにもない島でテントを張り、食事は自分たちがボートに積んであるレトルト食品を使って自炊した。当然お風呂もシャワーもない。
  夜、素晴らしい満天の星空を眺めていると昔の人はどうやってこの南太平洋を航海したのだろう?という疑問が沸いてくる。何千年もの昔、海を航海してこのマルケサス諸島を訪れた人々には大変な冒険だったに違いない。きっと上陸できる島を必死に探し、食糧となる魚をとり、飲料水は島にあるヤシの実などを利用して生き抜いたのだろう。

  現在のトンガの人々の食生活には、そのころのなごりが見られる。主食はタロイモ、ヤムイモ、サツマイモなどのイモ類である。ココナツミルクを使って茹でて食べるのが一般的だが、地面に穴を掘って火を焚き、蒸し焼きにする。この料理法をウムというが、肉や魚はルーとよばれる葉に包み、さらにバナナの葉に包んでウムにする。だから鍋も皿もなくて調理できてしまう。味付けは島で採れるココナツミルクと塩である。彼らのタンパク源は魚、カニ、ロブスター、タコや貝類だ。温暖な気候と豊かな自然に恵まれて、今でもこのような自給自足に近い食生活をしていることからも彼らの先祖もこの海域でうまく生活しながら移住してきたと推測できる。

  トンガの人々の食生活は陸と海の豊かな幸に恵まれている
トンガの人々の食生活は陸と海の豊かな幸に恵まれている

 マルケサス諸島を家に例えるなら島は寝るためのベットやリビングで、ヤシの木は飲み物の倉庫、海岸はさしずめキッチンになるだろうか。海は当然シーフードの生け簀といったところだろう。人気のまったくない手つかずの自然があふれる島々。ヤシの木とグリーンの芝生と太陽と青空。人間にとってこの環境は一見厳しいが考え方によっては素晴らしい楽園に他ならない。この1ヵ月ほどの旅は神様が用意してくれた地球の楽園を感じる旅でもあったと今さらながらに思う。ゴミのない島と海、絵に描いたような風景、人工の光も騒音もない100%自然界での生活はここを訪れた人間の心と体を浄化してくれたように思う。普段は陸が当たり前だと思っていたが、ほんとうはこの蒼い水の惑星で生かされていると感じる時間だった。
  ここ数年心配なのは、南太平洋は高さが海抜1mといった島も多く、地球温暖化で極地の氷が溶け海面が1〜2m上昇すれば、あのマルケサス諸島はあっという間にほとんど海の中に沈んでしまうことだろう。この旅で地球がいつまでも豊かな自然を守り続け、地上の楽園を人間が自ら壊さないよう自然との付き合い方を学んでいかなければならない時期なのだと強く感じることとなった。

キャメルトロフィーとは

世界一ハードなアドベンチャーレースとして知られる「キャメルトロフィー」。各国の代表として集まる数十名の参加者をチームに分け、世界の秘境をあらゆる手段を使って攻略していくレースだ。通常の大会は四輪駆動車を駆使してジャングルなどの秘境を舞台にするのだが、この20回大会は、トンガのババウ群島がスタートとなる。ゴールのサモアを目指して、参加者たちは何百もの島を探検する。島から島への移動にはゴムボートを使い、シュノーケリング、スキューバダイビング、クライミングなどさまざまな手段を使っての冒険が繰り広げられる。

MTBとは

マウンテンバイクの略。オフロードを走るための自転車。軽量で堅牢なフレーム、幅広で深い溝や大きなブロックが刻まれたタイヤ、多段変速ギヤ、前輪や後輪に装着されることがあるサスペンションなどが特徴。アウトドアで使うため丈夫に作られた自転車だ。

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