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第7回 「風と草原の大地 〜モンゴル〜」
モンゴルの遊牧民は広大な草原地帯に馬とゲル(テント)を使って生活している。広大な大地が広がる険しい自然の中では家族が協力しあわないと生きてはいけない。そこでは子供達にとって両親は偉大な存在だ。自然と共存、家族の絆。彼らの生活スタイルは文明と引き換えに失ったなにかを思い出させてくれる。

今回は、バイクでモンゴルを旅したときの話だ。モンゴルはユーラシア大陸のほぼ中央にあるモンゴル高原を中心にかつて馬を巧みに操り中央アジアから東ヨーロッパ一帯を統治した騎馬民族の国。現在でもその面積は日本の4倍もあるが人口は5分の1という人口密度が低く、本当に広々とした大地が占めている雄大な場所だ。
馬や家畜を放牧して生活するモンゴルの人々にとっては馬は欠かせない足となり、モンゴル人なら馬に乗れるのは当たり前。毎年7月に行なわれる「ナーダム祭」には9才以下の子供のみが参加する競馬がある。距離は全長約30kmに及び、長距離を完走する事で一人前として認められる重要な通過儀式なのだ。馬に乗る事そのものが生活であり、一人前のモンゴル人としての証しということになるのだろう。

さて、馬は馬でも鉄の馬に跨がり高原を走っていると不思議な事に数十キロ先で雨が降っているのが見えたり、また違う方角では遠くに晴れているところがはっきり見える。およそ周囲100km四方の空模様が同時に見えているという状態だ。あるとき向こうから大きな茶色い壁がすごい勢いでこちらに向かっているのに気がついた。最初なにがおきているのかわからなかったが砂嵐の突風が大草原を駆け抜けて迫っていることに数分経ってからやっとわかった。近くのゲルの中にいた人々は気配を感じて外に飛び出し家族全員でそのゲルのテントを押さえ、ゲルが飛んで行かないよう備えた。僕はバイクを地面に寝かせ自分が飛んで行かないようにバイクにしがみついて嵐が過ぎ去るのをやり過ごす。本当に大自然を相手にしていると人間がちっぽけに見えてくる

大草原で生きている子供たちにとって母親の存在は偉大だ。
大草原で生きている子供たちにとって母親の存在は偉大だ。

ある日朝から大草原を500kmほど走ったあたりで、やっとモンゴル人の一家族に会った。彼らは牧草地を求めて移動中らしく草原の真っただ中で馬車を止めて休んでいるところだった。するとどこからともなく8才くらいの馬に乗った子供が100頭ほどの馬を引き連れ現れた。少し経ってまた5才くらいの子が70頭ほどいる羊を引き連れてもどってきた。保育園や小学生位の子供が馬に乗って一人前の仕事をしていることにビックリする。その母親が牛の乾いた糞を燃料としてストーブに入れてスープを沸かし、うどんのような食べ物を作ってくれた。大草原の上で食べるうどんの味は格別うまかった。星空の下その家族の傍らの草原の上に寝袋でごろり。まさに大地が台所であり、リビングであり、寝室となった。なんだかすごく贅沢な気分になってくる。

この場所から数百キロ四方は人がまったくいない、病院もない、この広い大地で生きて行くには家族全員が協力しなければならない環境だ。だから子供は4才ごろになったらいっぱしの働き手となる。そして子供達にとって頼れるのは両親のみ。子供達に取って親は生きて行く為の頼るべき存在であり、生きるすべを教えてくれる先生でもある。なにもないモンゴルの大地では親は神様のように見える事だろう。だから子供達は父親と母親を尊敬し、そして家族は先祖を敬う。

日本では父親や母親の働いている姿を見ていない子供達、そして家族が普段の生活の中でお互いを必要とする絆が薄くなってしまい子供が親に対して尊敬を感じることがなくなってきているのではないだろうか。モンゴルの子供達の親を見る目がキラキラしているのがとても新鮮に感じられた。

また、彼らの家は布でできたゲルだ。馬を放牧する為に新鮮な草を求めて移動するために簡単に組み立てたりたたんだりできる構造になっている。そして、寝ていても外の様子がわかるため自然の変化や家畜の様子などもわかる。だから現代の建物のように外界から守る為に遮断するといった構造建物とは違うため外と室内が呼吸するシェルターといった感じだ。それは人間の本能や感覚を衰えさせない為にも重要なことのように思う。事実、僕は東京で暮らしている時よりもアフリカやモンゴルの様な大地でテントで寝て、移動している方が体の調子がいいし、勘が冴える。現代の家とは身を守る為に自然と切り離す方向に向かっていないだろうか。本来は自然とつながっていること、そして人とつながっていると感じながら生きる事が心と体のバランスを促し健康な生き方ができるように思えてならない。人間の潜在能力を生かすバランスの良い生き方とはなにか、自然との共生を考えた生活方法を現代にも取り入れて行けないだろうかと僕は思った。

モンゴルではジンギスハーンの末裔たちがゲルというテントで家畜や自然とうまくバランスし、共存している。ナチュラルライフの典型ではないだろうか。自然に合わせた生活がそこにある。日本で生活しているといつのまにか忙しさの中に忘れていたなにかをモンゴルの大地は呼び起こさせてくれた。
大自然を相手に生きるとき人は森羅万象すべてのものに神が宿るという感覚を持つというが、この旅を通してよくわかるような気がしてきた。自然が厳しければ厳しいほど人はやさしくなる。そして、相手を敬うようになる。

ナーダム祭とは

年に数回行われる国民行事でブフ(モンゴル相撲)・競馬・弓射の三つの競技が行われる。ナーダムはモンゴル各地で行なわれ、最も大きいものが国家主催の国家ナーダム(イフ・ナーダム)と呼ばれるもので、毎年7月11日の革命記念日にちなんで、7月11日〜13日の3日間にわたって首都ウランバートルの中央スタジアムで開催される。競馬だけは競馬場専用の場所で開催される。

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