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第24回 「火のある暮らし、森を生かす”薪ストーブ”」
薪ストーブから出る遠赤外線は電磁波として人や物の分子を振動させ加熱するので、他の暖房とは違い芯から暖まる。

薪ストーブから出る遠赤外線は電磁波として人や物の分子を振動させ加熱するので、他の暖房とは違い芯から暖まる。

バイオディーゼルカーの旅の途中、ある薪ストーブファンの方と出会い、僕は思いがけず「薪ストーブ」に魅せられてしまった。遠赤外線効果で家中がまんべんなく温まり、料理もできる。何より手間をかけて火を使い育てるという暮らしがいい。さらに話を聞けば、薪ストーブを使うことは山や森林を守り、地球温暖化の抑制にもなるという。それはいったいどういうことなのだろう? 日本は二酸化炭素の排出量を90年度比マイナス25%を目指すという。都会でも利用者が増えている薪ストーブの魅力に触れてみたい。

「”薪”を使うことが森の再生になるんですよ」薪ストーブの火を見つめていると、家主の彼はぽつっと言った。熊本県の阿蘇の裾で暮らすMさんは、大の薪ストーブファンでありプロでもある。ストーブの中でピザを焼けるのをしばし待ちながら薪ストーブについていろいろ教えてくれた。

薪ストーブとはそもそも、”煙突の付いた密閉された鉄の箱”のこと。鉄の箱の中で薪を燃やし、その熱で部屋を暖める。燃料となるのは、薪のみ。僕自身、薪=木を使うことは森林伐採につながるというイメージがあったのだが、そうではないのだ。

この薪ストーブは、ピザを焼く窯にも早変わり。香ばしい臭いが家の中に立ち込める。

この薪ストーブは、ピザを焼く窯にも早変わり。香ばしい臭いが家の中に立ち込める。

日本の森のほとんどは人の手が入っているため、放置すると森が荒れて木が枯れてしまったり、根がしっかり張れず土砂崩れなどの災害も引き起こしてしまう。計画的に間伐することで太陽の光が差し込んだ森の木々は、活発に光合成をして健康に育ち、森全体の健康が保たれる。間伐材=薪を燃やして排出されるCO2は、木が育つ過程で吸収したCO2と同量なのでプラスマイナス0になると言われている。家の中で石油燃料や電気を使って暖房した場合CO2は増加するが石油や電気を使わないで薪ストーブを使えばその分CO2を削減したことになる。したがって間伐材を薪として使えば「カーボンオフセット」となり、二酸化炭素を抑制するため温暖化防止にも一役買うことになり、木は植えることで持続可能なエネルギーとして再生し、間伐することで森の活性化にもつながるというわけだ。

「そろそろ焼けましたよ」ストーブの中に入れてからわずか3分でピザが焼けてしまった。ストーブの中から出されたピザはカリッと焼き上がって香ばしい。野菜スープもストーブの上に置いておくだけで、温めることができる。木を燃やした火を自ら調整して料理をするというのはとても気持ちがいいものだ。
部屋の中は、ほかほかとても暖かい。その暖かさは石油ストーブや電気ストーブとはまったく違うもので、身体の芯から優しく暖めてくれる。秘密は薪ストーブのもつ”遠赤外線効果”。「空気の温度を上げるだけではなくて、椅子や机、コップなど、すべてのものの温度を上げることができるので、非常に質の高い暖かさなんですよ」とMさん。この日だまりのような感触は格別だ。体験すれば誰もが魅了されてしまうだろう。

燃料となる薪は間伐材を自分で入手できれば限りなくコストはかからない。できるだけ情報を集め、自分で動くのがコツ。

燃料となる薪は間伐材を自分で入手できれば限りなくコストはかからない。できるだけ情報を集め、自分で動くのがコツ。

当然のことだが薪ストーブは電化製品ではないので、木を集めて割って乾かすという薪の準備に始まり、焚き付けから火を育てて部屋が暖まるまで、何にしても時間はかかる。あれこれ手間をかける必要のある道具なのだ。しかしそこにこそ魅力がある。すべてがリモコン操作ひとつでできてしまうこの時代、果たしてそれがいいことなのだろうか。速さや効率を求めるのではなく、生きることに時間をかける暮らしが、どれだけ大切で豊かなものだろう。

一昨年の石油高騰を期に薪ストーブはブームのようだ。昨年の大手の薪ストーブ会社の年間販売台数は約1万台(日本暖炉ストーブ協会調べ)だが、その他の中小販売会社もいれると1万数千台にもおよぶ。火のある暮らし「薪ストーブライフ」に魅せられ、最近では都会在住の方でも購入する方が増えているという。
「都会で?」と不思議に感じる方も多いかと思うが、薪ストーブの正しい知識を学び安全な設置を行えば、都会にいても可能なのだそうだ。中でも心配されるのが煙だが、現在の多くの薪ストーブは二次燃焼システムを備えていて、薪が燃えて(一次燃焼)発生する煙自体が燃える(二次燃焼)という構造のため、煙突からはもくもくした煙が出るのではなく、木の燃えた匂いのする透明な気体が出るだけ。効率のいい燃やし方をすればそうそう煙は出ることはないようだ。

薪を割る作業はやってみるとけっこう面白い。頭と体の良い運動になるものだ。

薪を割る作業はやってみるとけっこう面白い。頭と体の良い運動になるものだ。

気になる薪ストーブの値段は種類や用途によって色々だが、相場はおよそ20〜60万円程度。地域によっては助成金制度もある(※)。さらに煙突の選択は重要で、排出する煙をきれいに燃焼するものは工事費も含め40〜60万円ほどみておく必要があるようだ。Mさん曰く「薪ストーブも様々な種類があり、それぞれのメリットやデメリットもある。用途や価格などその人に合った薪ストーブ選びが大切」なのだそう。
薪は都会ではなかなか集め難いこともあるが、週末せっせと集めに行く方もいるし、どうしても困難な場合は薪屋さんから手に入れている方もいる。薪集めを上手にやればコストは限りなくただに近づくのも面白い。

木は人間にとって非常に身近なエネルギーだ。その薪を使って火を操ってご飯を炊いたり、お風呂を沸かしたり、暖房をしたり……これはとても楽しいことではないか。
「生活を便利にするためにではなく、私たちは幸せになるために生まれてきたと思うんです」Mさんは語る。
10年前、彼は薪ストーブに出会いその愉しさに目覚め、ハイスピードな生活からスローなスタイルへ方向転換を遂げた。時間に追われ一日に一度火を見ることさえもままならない今の時代。しかし私たちはかつて火とともに生き、火を隣に、暮らしを営んできた。薪ストーブはそんな感覚を少しでも思い出し、生き生きと暮らすためのライフスタイルを見直すきっかけになるのではないだろうか。

薪ストーブの助成金

 

地域協議会民生用機器導入促進事業(環境省)が今年で3年目となる薪ストーブ助成金制度がある。ストーブ導入費用の3分の1補助とし、上限20万円までとなっている。しかし、申請は個人ではできず、認定された地域協議会(各地域の薪ストーブクラブ)が10軒以上薪ストーブ導入者が集まった段階で申請作業をすることになる。薪ストーブの愛好家が集まる「薪ストーブクラブ」は、関東や関西近縁をはじめ全国にある。

「カーボンオフセット」とは

日常生活や経済活動の中で排出される二酸化炭素(カーボン)を、何か別の手段を用いて相殺(オフセット)しようという考え方。

環境などの取り組みについて、もっと知りたい方は「地球環境パートナーシッププラザ(GEIC)」などでも調べることができる。

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