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第26回 「白神山地、自然とヒトの共存を考える」

 

森林の伐採、河川の枯渇、温暖化など様々な環境破壊が現実となっている近世。僕はバイオディーゼルカーで世界一周をする中で、そんな悲劇的な惨状をこの目で見てきた。ヒトと自然の共存。これは僕らが直面している最大のテーマのひとつに違いはない。  先日、僕はバスコファイブで東北にある白神山地を訪れた。世界的にも珍しいブナの原生林を歩き、森の声に耳を澄ませた。今回はそこで感じたことについて、お話したいと思う。

 

白神山地とは、1993年に世界遺産に登録された山林。某有名アニメ映画のモデルになったことでご存知の方も多いかもしれない。世界遺産に選ばれた理由は、人の手の入っていない広大なブナの原生林(※)が世界的にも貴重であるからだ。かつて東日本の多くの極相林(※)はこのようなブナ林だったのだが、ブナは成長が遅く建材に向かないため次々に伐採され、かわりに成長が早く真っ直ぐに育つスギが植えられていった。そのような時代背景の中で、これだけ大きなブナの原生林が残ったのは、奇跡的なことと言える。

 

白神のブナの森はとても美しかった。あちこちの木にクマの爪跡が見られ、落ち葉が何層も重なり合った土はまるでクッションのようにフカフカだった。人ひとり歩けるほどのマタギ道を数時間歩くと、様々な世代のブナに出会った。まだわずか15cmくらいの幼いブナ、若いブナ、老いたブナ……。「太さだけでは年齢はわからないんですよ。木も老いればでこぼこしたりしわも増えます」案内してくれた米澤さんは言う。「木も人間と同じなんですよ」と。深いしわや、コブや亀裂があったり。じっとブナを見つめれば、そのブナがどれだけの時間を過ごしてきたのか感じることができる。
米澤さんは白神に入山して40年にもなるベテランガイド。ここ白神の植生をこよなく愛し、長く観察を続けてきた。誰も撮影したことのない四季折々のブナの森の姿を、コツコツと撮影記録し、図鑑も制作している。

 

「ここ白神では、どんなに動物たちがこの森で木の実を食べても、なくならなることはないんです。動物たちは同じところでずっと食事をすることはありません。こっちで食べては移動して、あっちで食べては移動して……を繰り返します。食べ尽くすことはしないんです」
 
つまりここ白神のブナの森は、多様な生態系のバランスが保たれているということ。この循環の環の中に人間は介入しておらず、残念なことに、世界遺産として守られなければ、お金や私利私欲だけを追い求める人間の手によって伐採され続けてしまうだろう。

自然を生かすことも、傷付けることもできるのが僕たち人間だ。人間が私利私欲のために自然資源を取り尽くした結果、もうすでに多くのバランスを崩してしまった。お金やモノに価値を見いだそうとしている現代の社会システムによって、地球は今、確実に危機的状況にある。


「一度ブナの森を伐採してしまえば、元の森になるには500年かかると言われています」
米澤さんと話すうち、ネイティブアメリカンたちのある言葉を思い出した。彼らは、こんなふうに言っている。
「7世代先の子孫達からこの大地を借りているのだ。7世代先の彼らに、元通りにして返さなければならない」と。森や自然からなにかをいただいたり、利用する場合、7世代先の子孫のことを考えてきた。目先のことやわずか数年のことではなく、未来の地球や人類のことを考えて自然と付き合っていくということ。彼らが受け継いできたこの言葉のように、それこそが、自然と共存していく唯一の術なのではないだろうか。

 

白神のブナの森のように、「多様性」というバランスを保った最終的な森の姿。それは極相林である。人間が本気で自然と向き合うべき今、目指すべきは「人間が介入したバランスの良い極相林」なのではないかと思うのだ。
昔、自然と共生していた人々は、自然を敬う気持ちをもち、自然や地球があるからこそ生きていけるという気持ちを忘れなかった。自然と共生するバランスを知っていたのだ。そんな昔の人々がもっていた知恵を現代の社会に融合させ、バランスを保って生きていくこと。それが今まさに問われている。
 
これからの季節、ツキノワグマたちは冬眠の準備に、せっせと食事に忙しいことだろう。ブナの木々は黄金に染めた葉を落とし、やがて森全体が美しくも厳しい白銀に包まれる。冬はもうすぐそこだ。

極相林

植物は自然に任せると遷移を起こし、最終的には樹種の構成がさほど変化しない状態になり、その地域の最も適した樹木の林になる。その状態を「極相」といい、その最終的な状態の森林を「極相林」という。

原生林

極相に達した後、ある程度以上の期間にわたり、人の手の撹乱を受けていない林のことをいう。

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