ぬりものに学ぶ。くらしの工芸に学ぶ Vol.1 ぬりもの 赤木明登

毎日の暮らしのなかで使いやすく  美しいものを作りたい。ぬりものを始めてから今まで  ずっと考えていることです。

僕が塗師になったのは、角偉三郎さんという人の作品と出会ったのがきっかけです。当時はバブル期で輪島塗の多くは富裕層が飾るために贅沢に作られたものでした。それは漆にとって本質的なものではない。漆っていうのは手や唇に触れてこそ良さのわかる、使うためのものなんだという原点に立ち戻ろうとしていたのが角さんでした。
そんな角さんの助言もあって、僕はまずきちんとした技術を身につけようと、昔ながらの塗師である親方のもとへ弟子入りしました。「自分が本当に欲しいものではない」と思うこともありましたが、そのうちに親方世代の職人のなかに「漆を使うなら丈夫なものを作らなければならない」という輪島の魂が息づいていることに気づいたんです。でも作られている漆器は、相変わらず扱いがデリケートで実用的ではないと思われていました。この作り手と使い手のギャップを埋めたい。でも自分はいったい何を作ればいいんだろう。そう悩みながらたどり着いた結論は単純で、自分たちの暮らしのなかで本当に必要なものを作ろうということ。
毎日の暮らしのなかで、使いやすく、美しく、丈夫であること。それはぬりものもキッチンも同じように大切なことだと思いますね。

漆を塗ることでより丈夫に より使いやすく――。漆は「美コート」と同様に 強くて美しいコーティング技術なのです。

漆塗りの始まりは縄文時代、数千年の歴史があるといわれています。始めは赤い顔料を塗るための溶剤として使われていたのでしょう。漆は固まると酸化などの化学変化にも強く、腐らない。強度も増すことがわかっていたはず。例えば土に埋まっていた大昔の素焼きの土器が、現在も形をとどめているのは漆のおかだと言われています。人が作りだしたもので、土器よりも古いのは植物の繊維を編んだもの。それを衣類や器にするときに水漏れを防ぐように泥を塗ったり、漆を塗ったりした…という説もあるんです。 つまり漆は最古のコーティング技術といえます。だとすると、S.S.の「美コート」は、いわば最新のコーティング技術。まったく違うようで、実は“人がより丈夫に、より使いやすく”という目的のために考え出した技術という点では同じなのかもしれません。 また、S.S.を見ていてほかにも僕のぬりものと同じ考え方の機能がありました。僕が馴染みのお寿司屋さんに納めた折敷なんですが、漆に鉄の粉を混ぜてパテ状にしたものを布でたたいて塗りつけてあるんです。すると凹凸のあるざらざらとした表面になって、陶器の器を上に置いたときにできる傷が目立たなくなる。「特殊エンボス加工」と似た考え方だなと思いますね。

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