キッチンに何を望んでいるのかは人それぞれ違うけれど生活を楽しくできるキッチンが  理想なのはみんな同じ。

僕たち夫婦にとっては、理想的なキッチンというと、昔ながらの土間にかまどがあるような古い“台所”なんですね。近くのお寺には今も昔ながらのお講があって、少し前までは、みんながそんな昔ながらの台所で料理していました。でも、最近、近代的なキッチンにリフォームされてしまって…。おばあちゃんたちは、「ああ、便利になった」と言って喜んでいるけれど、妻はとても寂しがっているんですね。やっぱり人それぞれ理想は違うから、仕方がない。
僕たち夫婦が古い台所を望んでいるのは、人間は本来、自分の身体の能力を使うことにおいて喜びを感じると思っているから。自分の手で手間をかける家事労働こそ人生の中心で、生活を楽しむことだと感じているからです。
S.S.は、ある意味、僕の理想の台所とは対極にある便利な台所です。でも、僕の作る器とは、とても似ているかもしれません。僕の器もS.S.も、いかに使う人のストレスをなくすかを追求している。器は体の延長線のような、存在を感じさせないくらいのものであってほしいと願っているんです。使いやすくストレスのないS.S.は、人によっては、生活を楽しくする理想のキッチンですよね。今後も、もっと使いやすさを突き詰めていってほしいです。例えば、器を洗いながら、「もっと熱い湯を」とか「もっと水流弱く」とか話すだけで調整できたらすごく便利かも(笑)。

暮らしの基本は「食」だから作り手の顔がわかるものを  選ぶことにこだわります。

器は、食べ物が入ってこその道具。器を作っている者としては、中に入る食べ物には感謝しなければなりません。その食べ物に僕たちがこだわっているのは、ただひとつ。誰が作ったかわかるものを食べたいということだけです。僕の親方は「ほんとうに、うまいもんは、四里四方の内にある」とよく言っていました。1日で歩いて出かけて帰れる範囲に、山菜もきのこも海藻も、なんでも食べたいものが手に入るという意味ですね。その範囲内で手に入る旬のものが、いちばん豊かな味わいだと思います。僕たちは野菜は畑で作ったり、ご近所さんにもらったり。魚は朝市で新鮮なのを話しながら選ぶ。お米は知り合いの田んぼで作っているものをわけてもらっています。どれもとてもおいしい。
作り手の顔がわかるものを選ぶ。これは食だけでなく、物も同じかもしれません。衣類や器も作った人がわかるものがいちばんいい。
暮らしの基本は食ですからね。食にこだわると、暮らしが楽しく豊かになる。その食を作り出すキッチンには、やっぱりとことんこだわって選ぶほうがいいですね。S.S.もそんなこわだりに十分応えてくれるキッチンだと思いましたよ。

ぬりもの 赤木明登(あかぎあきと)

塗師。1962年岡山県生まれ。東京で編集者として働いた後、1988年に家族とともに能登へ移り住む。下地職人のもとで修行し、1994年に独立。以後、塗師として技術を伝えながら、従来の絢爛豪華な輪島塗ではなく、現代のライフスタイルが求める丈夫で美しいぬりものを生み出し続けている。各地で個展を多数開催。著書に、『美しいもの』『名前のない道』(いずれも新潮社)、『漆塗師物語』(文藝春秋)など。
http://www.nurimono.net/

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