写真は、江戸時代に彫られた仲の良さそうな夫婦の石像である。それも爺婆(じじばば)と呼ばれているように老夫婦である。どんな経緯があって、安置されているのだろうか。仲睦まじい夫婦の関係は、江戸時代であろうが何時代であろうが、変わらぬ願いである。
石像の話の前に、現代の夫婦関係の運動を紹介しておこう。11月22日の「いい夫婦の日」がそれ。この日は昭和63年(1988)に(財)余暇開発センター(現(財)社会経済生産性本部)によって、『夫婦で余暇を楽しむゆとりあるライフスタイル』の提唱に伴って制定された。平成10年からは「いい夫婦の日をすすめる会」が中心となってこの時期にキャンペーンを展開している。夫婦の料理教室やパーティなどさまざまなイベントが各地で開催される。また、例年この日のために理想のいい夫婦「パートナー・オブ・ザ・イヤー」も発表される。今年はどんな夫婦が選出されるのだろうか(2006年度は船越英一郎・松居一代さん夫婦が受賞)。
理想の夫婦のあり方、いい夫婦とはいったい何かとかを問われてもなかなか答えにくく、深みにはまってしまいそうなので、夫婦の記念日くらいに考えると気が楽である。単なるゴロ合わせの日にすぎないが、一年に一日くらい「私たちはどんな夫婦なんだろう」とお互い考えてみるのも悪くはないと思うし、これを機会に夫婦でイベントを楽しむのもいいだろう。
江戸時代に話を戻そう。写真の二基の石像は寛永年間(1624~1644)に、相州(神奈川県)の風外(ふうがい)和尚といわれる禅僧が両親の供養のために山中で求道生活をしながら彫ったものだ。見事な出来栄えに感銘した小田原城主がこれをもらい受け、転封に際し菩提所である弘福寺に安置したのだという。小田原から江戸に運ばれ、ここに落ち着くまでは様々な伝承が残っている。
夫婦の石像が行方不明になったり、別々に祀られていたこともある。また、一緒にしておくと必ず爺さんの方の石仏が倒されるともいわれた。実はこの夫婦は仲が悪く、ときどき喧嘩をしては、婆さんが爺さんを倒してしまうといういい伝えもある。昔から女性は強かったということか。この辺の話は柳田国男の『日本の伝説』にも紹介された。今はもう大丈夫、微笑みをたたえながら二人仲良くならんでいる。夫婦はやはり、山あり谷ありということなのだろう。
この一対の石像は「咳の爺婆」と呼ばれているように、風邪除けの神様として知られ、今も多くの参拝者が訪れる。そういえば、この石像の作者は風外という名の僧侶だった。爺さんは、口内炎や扁桃腺(へんとうせん)のような口中の病を治してくれる神様、また婆さんは咳を止めてくれる神様だ。境内で「せき止飴(あめ)」を売っているのが面白い。風邪をひいたら、「咳の爺婆」にお参りをしたあとアメをなめてみるのもいい。その際は、ぜひ夫婦で訪ねよう。
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