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スポーツの祭典といえば、まずオリンピック。東京2020、北京2022冬季、そしてパリ2024と続いていく。この近代オリンピックの始まりは1896年のギリシャ、明治29年のことだった。そこで、日本のスポーツの歴史を振り返ってみよう。
中世・近世においてスポーツらしきものをみてみると、武術がある。剣術、槍術、柔術、馬術、砲術…、江戸時代の相撲などもここに入るだろう。武術は、現在あるスポーツ競技の潮流をなしている。なぜか。発生発展の背景には、その時代時代の戦いや合戦があったからである。同時にそれには、日本人が古来持ち備えた「祈り」や「礼」が含まれていた。つまり神社への奉納として、一体化した儀式でもあった。
流鏑馬(やぶさめ)は、馬を走らせながら馬上で弓を射って、的に当てる、馬術と弓術の合体した武芸である。武器としての使用は、鉄砲(火縄銃)が登場するまでは重要な位置を占めていた。まず敵に向かって矢を放ち、近づくと槍、そして刀という順序だ。
弓矢が使われた期間は長い。『関ヶ原合戦図屏風』『大坂夏の陣図屏風』などを見ても、鉄砲に比べ少数ではあるが弓矢で戦う兵がいる。天文12年(1543)の鉄砲伝来から半世紀以上経ってもまだ弓矢は実戦で使われていたのである。それは、鉄砲を撃つにはとにかく時間が掛かったからだと思う。銃口から火薬を入れ、弾を入れ、かるか(細長い木の棒)で突いて押し込めなければならなかった。1分間に2発、早くて3発といったところ。そんなことをしているうちに敵は目前に来てしまう。その点、弓は早い。
話が逸れるが、短時間に矢を続けざまに射る──「矢継ぎ早(やつぎばや)」という言葉はここからきている。
流鏑馬は平安時代より前からあったようで、鎌倉時代には盛んに行われ、戦国から江戸に入る頃にはもう衰退していたようだ。
江戸時代、古式に則った流鏑馬を復活させたのは、八代将軍吉宗である。享保13年(1728)、高田馬場で流鏑馬を実施し、高田八幡宮(現穴八幡宮)に奉納した。この高田馬場は、それより前の寛永13年(1636)、三代将軍家光により造営され、もともとは旗本らの馬術訓練を目的としたものである。
元文三年 高田馬場流鏑馬之図(部分) 岡本善悦
吉宗は、世継の家重(吉宗の子、後の九代将軍)の疱瘡(天然痘)平癒を祈願して流鏑馬を奉納したのだった。また、元文3年(1738)には、竹千代(吉宗の孫、後の十代将軍家治)の誕生を祝って、流鏑馬を奉納している。それ以降、世継が生まれたときや厄除けのために神事流鏑馬が催されるようになった。
元文三年 高田馬場流鏑馬之図(部分) 岡本善悦
この図会は、江戸後期(天保年間)の馬場。左奥は流鏑馬の練習、土手を挟んでこちら側では弓の稽古のようだ。人の往来や茶店で飲食をしているところをみると、随分のんびりした様子が伺える。
高田馬場は、現在のJR高田馬場駅から早稲田通りを東に歩いて早稲田大学の手前(新宿区西早稲田)辺りにあった。なお、高田馬場の本来の読みは“たかたのばば”だが、近年は“たかだのばば”が使われている。馬場とは馬の調練や弓射を稽古する所で、江戸には、他にも初音の馬場(中央区日本橋馬喰町)があり、こちらは家康が関ヶ原の戦いへ出陣するとき、馬揃えを行った馬場と聞く。
文 江戸散策家/高橋達郎
画像出典/国立国会図書館デジタルコレクションより
参考文献『江戸名所図会』
穴八幡宮(旧称高田八幡宮)正面鳥居の横の流鏑馬像。矢の先に特徴がある。このような矢が鏑矢だ。
- 鏑矢(江戸期)
①刺股 幅45mm ②長さ45mm
③鏑 太さ30mm ④長さ55mm
⑤小孔(穴) 通常3、4個
(内部空洞)
※犬を追う「犬追物」などの競技用鏑矢には、
犬を傷つけないよう、先端の鏃はなかった。
先端の鏃(やじり)部は金属製、刺股(さすまた)で、その内側に刃が付く。本来は狩猟の際、鳥の脚や首を狙うために考案されたもので日本独自の形だ。
白い紡錘形の部分が鏑(かぶら)、蕪とも書く。笛のような仕組みで、小孔に空気が入り矢の飛翔中に音を発する。鳥はその音に驚き、一瞬身をすくめ静止するのだそうだ (筆者は経験がないので真偽のほどは不明です)。
鏑矢と聞いて、思い出す方も多いだろう。あの『平家物語』、有名な「扇の的」の名場面だ。戦いを前にして那須与一(なすのよいち)が射た弓が鏑矢である。矢は鳴り響いて飛び、扇の要(かなめ/扇の骨を一点で留めてある部分)近くを見事に射切り、扇は空へ舞い上がる。
当時、鏑矢は戦闘開始の合図として用いられた。自軍へ知らせるとともに、敵軍への布告でもあった。
「嚆矢(こうし)」という言葉がある。「嚆」は鳴り響くの意。嚆矢とは鏑矢のことで、このことから、物事のはじめを「嚆矢(こうし)」というのである。
文・写真 江戸散策家/高橋達郎
協力 『日本の武器兵器』須川薫雄
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