多くのキッチンメーカーの開発現場で長年の懸案事項となっていた、デッドスペースになりがちなL型キッチンのコーナー部。そこへ2001年、彗星のごとく登場したのが「コーナーワゴン＆デルタトレー」でした。中心には必要なときだけ出して使えるコーナーワゴン、残った左右の三角地帯も有効な収納スペースへとデザインされた、“使える”L型コーナー。あまりの難関に開発中止となりそうになりながらも完成したヒット商品の開発秘話を、当時の開発担当者の言葉をもとにご紹介します。
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100％使いやすい、デメリットの生じない仕様を目指して
コーナーワゴン＆デルタトレーの開発がスタートしたのは、1998年。当時、L型キッチンのコーナー部の収納については、クリナップはもちろん、他のメーカーでもさまざまな工夫を凝らしてきましたが、いずれも良い部分があったとしても、その裏にはデメリットの要素が見え隠れするものでした。
「出し入れはしやすいけれど、複雑化した機構が幅を取ってしまったり……。当時は回転棚式がベターでしたが、やはりまだまだデッドスペースが残り、また収納物が転がり落ちて取り出せなくなるといった不具合を避けられないという点で、ベストではない。そこで私達は、メリットの裏返しのデメリットをつくらない、100％の仕様を目指そうと決意を固めました」
そして浮かび上がったアイデアが、使いたいとき引き出して中のモノをラクに出し入れできるコーナーワゴンを中央に、その左右に片方ずつ引き出せるデルタトレーを設けて、デッドスペースを排除するというものでした。
探して探して、辿り着いた最適素材と成型法
「しょっちゅう使うモノをワゴンに、たまにしか使わないモノをトレーに。この基本イメージはすぐに固まりましたが、それからが試行錯誤の連続でした。引き出しやすくするには軽くなければいけない、でもプラスチックだと軽いが強度が出しにくい。では木か？ いや、それだと重くなってしまうし工数もかかる……という具合に、素材選びには悩みましたね」
結果的に選んだ素材は、プラスチック。実は、その成型技術が開発の最も大きなポイントとなりました。プラスチックの成型方式にはいくつかあり、候補となったのはインジェクション成型とブロー成型。結果、選んだのは後者でした。
「コストバランスが最もよいことが選択理由ですが、決め手となったのは、協力してくれた部品メーカーさんの高い技術力でした。複雑な形状をつくりにくいというブロー成型によって、我々の要求に対してこれだけのものをつくり出せるのは、当時ではそのメーカーさんくらいだったのではないでしょうか。彼らがいなければ、日の目を見ることは無かったでしょう」
完成イメージは明確だったものの、図面を引くこと400枚！
コーナーに位置する関係で、構造角度がすべて45度となります。そのため製造上の不都合がいくつもあり、図面は完成まで400枚も引き直したといいます。
「それだけ時間もかかってしまい、そうこうするうちに組織変更で開発テーマが変更となってしまいました。しかし幸いなことに、空いた時間に進めてもよいという上司の許可をもらえたのと、予算の無い中で、社内の関係者や外部の協力会社さんが、『ここまでやったのだから、ぜひ完成させましょう』といって手伝ってくれて、何とか発売にこぎつけました」
「木」を素材に描かれた開発初期のスケッチを見ると、この時点から完成イメージが明確だったことがわかります。それだけ形にするのが困難なものだったことが窺い知れます。
コーナーワゴンを見て、L型キッチンにしたという方も！
発売当時から、まさに“人気爆発”となったコーナーワゴン&デルタトレー。当時の開発担当者から、こんな逸話も聞きました。
「I型でプランニングを進めていたところ、ショールームでコーナーワゴンを見てL型に変更しました、というお客さまが実際にいたそうです。苦労して発売までこぎつけた商品だけに、聞いたときは本当に、涙が出そうでした」
現在でも、コーナーワゴン&デルタトレーの存在がL型を決意させるポイントなったというお客さまが少なからずいらっしゃるようです。細かい部分をブラッシュアップしながらも、L型コーナー収納の使い勝手を飛躍的に高めたアイテムは、ほぼ誕生したときの姿のままで活躍を続けています。
